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BL11 PLANET 超高圧中性子回折装置

鉄に溶けた水素はどこにいる? ~ 鉄中の水素を中性子で観測することに成功 ~

(町田ら、Nature Communications, 5, 5063 (2014). )

水素は鉄などの金属中へある温度、圧力条件で溶け込みます。溶けた水素は例えば材料強度を弱めるといった機械的な特性変化(水素脆性)を引き起こしますが、その現象の理解には、水素がどこにどのくらい存在するのか、という情報が重要になります。鉄中に水素は数万気圧という高圧力下でしか高濃度に溶け込むことができません。材料中の水素を観測する方法は限られ、また高温高圧力下での測定は技術的に困難でしたので、これまで実験的に観測できませんでした。

今回、水素を観測することができるJ-PARCの大強度中性子線を利用して、高温高圧力下の鉄中に高濃度に溶けた水素の位置や量を、実験的に決定することに成功しました。これまで、面心立方構造の鉄中においては、鉄原子が作る八面体サイト(図1)の内部のみに水素が存在すると考えられていましたが、高温高圧力下における中性子回折実験により鉄原子の作る八面体サイトに加えて四面体サイトの内部にも水素が存在することを世界で初めて明らかにしました。本研究の成果によって、鉄中に溶けた水素に関係する特性の変化に対する理解がより一層進むと期待されます。また各種鉄鋼材料の高品質化・高強度化に向けた研究開発や、地球内部の核に存在する水素の研究などの進展にも役立つと期待されています。

高圧氷に新たな秩序状態を発見 ~ 氷の五大未解決問題の1つを解決 ~

(小松ら、Scientific Reports, 6, 28920 (2016).)

氷を低温高圧状態にすることで、通常の氷とは異なる構造を持つ「高圧氷」が生成されます。その種類は現在、約17種にも及びますが、その多様性は、酸素が作る骨格構造の中の水素の配置の仕方、すなわち水素がある一方向に偏る(秩序化)か、ランダムに配置する(無秩序)かにより生み出されます(図1)。その中の一つである氷XV相(秩序相)に関して、実験、理論から推定される水素の配置は食い違っており、氷研究の五大未解決問題の一つとされてきました。

この問題を解決するために、低温下でも自在に圧力を変えられる装置(図2、通称Mito system)を開発し、氷XV相の直接観察を行いました(図3)。その結果、これまで予見されていた秩序相とは異なる、秩序相や無秩序相でない、部分的に秩序化した相が生成されることを世界で初めて明らかにしました。この結果は氷XV相に関する過去の研究の矛盾を解消できます。さらに、氷の多形においてこれまで考えられてきた秩序相、無秩序相に加え、部分秩序相という第三の状態を考慮に入れる必要があることを示しており、パラダイムのシフトを促す研究となりました。

図1 低温高圧下で生成される多様な氷。それぞれの酸素骨格構造に対して、水素が偏った秩序相とランダムに配置した無秩序相が提案されていた。

図2 PLANETに設置された低温高圧装置Mito System (小松ら、High Pressure Research 33, 208 (2013))

図3 低温高圧下における氷の回折パターンの変化。